旭川地方裁判所 平成10年(ワ)339号 判決 1999年11月18日
原告
齋藤忠雄
被告
成澤繁
主文
一 被告は、原告に対し、金一四二六万〇九八三円を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
被告は、原告に対し、金三三〇〇万八一四三円を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故で傷害を負った原告が、被告に対し、損害の賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
(一) 日時 平成九年八月五日午前一一時一五分ころ
(二) 場所 旭川市西神楽三線一三号一〇番地付近路上
(三) 原告運転車両 自家用普通乗用自動車(旭川五八ゆ八九四三号)
(四) 被告運転車両 自家用普通貨物自動車(旭川四五せ六〇二〇号)
(五) 事故態様 原告運転車両が交通整理の行われていない交差点を直進中に、左方向から一時停止を怠って交差点に進入した被告運転車両と衝突した。
2 被告の責任
被告は民法七〇九条により、本件事故により原告が被った損害につき賠償義務を負うべき者である。
3 原告の負傷と入・通院
(一) 平成九年八月五日(一日間)
医療法人整形外科進藤病院(以下、「進藤病院」という。)に通院(診断名)右肩鎖関節脱臼、右橈骨骨折
(二) 平成九年八月七日から同年九月二〇日まで(四五日間)進藤病院に入院
(三) 平成九年九月二二日から平成一〇年三月三日まで(一六二日間)
進藤病院に通院(通院実日数六五日)
(四) 平成一〇年八月一七日(一日間)
美瑛町立病院に通院
(診断名)右前腕骨折后
(五) 平成一〇年八月一八日から同年九月一七日まで(三一日間)
美瑛町立病院に入院
4 原告の後遺障害
原告は、本件事故により右肩鎖関節脱臼、右橈骨骨折の傷害を負い、右肘関節可動域制限と右肩部変形(併合一一級)の後遺障害が残った。
5 本件事故に伴う人身損害に対する現在までの填補額
合計 五九六万六五六四円
6 填補後の原告の被った追加損害
被告は、原告に対し、次の損害を賠償する責任がある。
(一) 入院雑費 一〇万〇一〇〇円
(二) 通院交通費 二万八四五〇円
平成一〇年一月二六日より同年八月一七日までの前記進藤病院及び美瑛町立病院に通院した二三日分
(三) レッカー代 一万円
二 争点
本件の争点は、原告の被った損害、すなわち休業損害、後遺障害による逸失利益及び慰謝料の額である。
第三争点に対する判断
一 休業損害(原告の主張額は三八〇万一三四三円)
1 証拠(乙六、一〇、一一、一三、原告供述)によれば、原告は、中学校卒業の学歴であること、平成三年九月二六日ころ、ボランティアの仕事の関係で埼玉県川口市から肩書地に転居し(乙六、一三、原告供述)、平成五年ころから、有限会社丸忠興業の商号で車検業等を営業していたが(乙一一)、親から多額な遺産を受けたこともあって、平成九年ころは客からの電話による受注に応じ、好意で車検業務をするなどして生活していたこと(原告供述)、原告は本件事故による傷害により、前記入院期間中仕事することができず、また入院前の通院期間中も仕事をしなかったこと、原告が仕事に就労することができなかった期間は合計二四三日間であったこと(原告供述)、本件事故前の原告の収入額は、平成九年度(平成八年分所得)所得証明書の所得金額には、事業収入として四九万円の記載があるものの、総所得としては〇円であること(乙一〇)などを認めることができる。
2 そこで、原告の休業損害額について検討するに、給与所得者の休業損害は事故前の実収入を基礎として算定すべきところ、本件においては、原告は、本件事故当時、埼玉県川口市所在の実兄が経営する訴外株式会社斉藤土建(以下「斉藤土建」という。)の従業員であり、平成九年二月から同年七月まで現金払いで月額七〇万円の支給を受けていたことを窺わせる証拠(乙一五の一ないし三)もある。しかし、平成三年九月ころから肩書地に居住し始めた後、車検業を営んでいたものの、好意で車検業務を行うことをもってして十分に生活しうる状況にあった原告が、平成九年二月に至って遠隔地の斉藤土建に突如勤務を始め、月におおよそ一週間ほどの短期間で、斉藤土建の保有する貨物自動車の車検業務を行い、しかもその対価として月額七〇万円もの高額の収入を得るということはいかにも不自然というべく、原告が雇用契約書等(乙一五の一ないし三)のほかに斉藤土建から前記収入を得ていたことを裏付ける証拠がない本件においては、前記契約書などの内容の信憑性に疑いが残るものといわざるを得ない。
そうすると、本件においては、前記認定のとおり、本件事故前の平成八年度の総所得は〇円であったこと、原告は、就労が不能となるような健康上の障害はなく、一応就労の意欲も有していたと認められることなどの事情に照らすと、被害者の年齢・性別に応じた賃金センサスを基礎として休業損害額を算定するのが相当であると解される。
しかしながら、原告の稼働状況、従前の稼働実績、就労に対する意欲の程度、そのほかに休業損害額算定の基礎となるべき収入額について的確な主張立証のない本件の証拠状況のもとでは、控え目にみて、休業損害として平成九年の賃金センサス、産業計、企業規模計、全労働者、年齢別を基礎とする男子労働者の年間平均賃金六一八万六六〇〇円の三分の二を認定するのが相当であり、その金額は四一二万四四〇〇円になる。
したがって、原告の休業損害の日額単価はこれを三六五分して、一万一二九九円となる(小数点以下切り捨て)。
3 次に、休業日数について検討するに、被告は、本件においては、原告の職種及び稼働実績が不分明であるとして、休業日数は実治療日数の一四六日を基礎とするべきであると主張する。しかし、原告は、本件事故により、右肩鎖関節脱臼、右橈骨骨折を受傷し、右肘関節可動域制限と右肩部変形を残存し(甲三)、進藤病院における入・通院とその後の美瑛町立病院における入院加療にもかかわらず併合一一級の後遺障害を残したこと(甲四、五、九)、前記通院期間中もけがの状態や医師の助言により仕事に就労することができなかったこと(原告供述)を認めることができるから、休業日数は、通院期間を含めた二四三日間であるとするのが相当である。
4 そこで、これらにより原告の本件事故による休業損害は、二七四万五六五七円となる。
六一八万六六〇〇円×三分の二×三六五分の一×二四三
二 後遺障害による逸失利益(原告の主張額は二三三〇万六〇〇〇円)
前記のように、原告には障害等級併合一一級に該当する右肘関節可動域制限と右肩部変形が残ったのであるが、証拠(甲三、九、原告供述)によれば、後遺障害は平成一〇年三月三日ころ固定したこと(甲三)、原告は昭和二三年一一月二六日生まれ(事故当時四八歳)の男子であり、中学校卒業の学歴であること(原告供述)、前記後遺障害のため、右肘可動域は健側である左と比較して六七パーセントの制限があり、肘関節の拘縮が永続していること(甲九)、肘をあげると痛みがあること(原告供述)などの事実を認めることができる。右事実と原告の年齢によれば、原告は、前記後遺障害により労働能力が低下したが、その程度は、その固定時の四九歳から稼働可能と認められる六七歳までは二〇パーセントと認めるのが相当であり、右程度において労働能力が減少したものと認めるのが相当である。
しかし、その基礎となる収入額については、原告の本件事故前の稼働実績に照らすと、原告は車検業を含めてほかの仕事にもそれほど重点を置かないで過ごすことになる可能性もあることを否定し難いこと、そのほかに基礎となる収入額を認定すべき的確な主張立証がない本件の証拠関係のもとでは、控え目にみて、前記年間平均賃金六一八万六六〇〇円の三分の二の四一二万四四〇〇円をもって右の基礎となる収入額とするのが相当である。そして、中間利息控除率はライプニッツ係数を用いるのが相当である。
もっとも、被告は、原告が本件による受傷当時に既に二〇年余が経過した糖尿病疾患歴を有していたから、六〇歳までの一一年間が労働能力喪失期間となると主張するが、原告は三〇歳ころに糖尿病疾患を発症したものの、その後今日まで、継続的に食事療法、投薬などその治療に努めていること(原告供述)、右病歴によって労働能力の喪失期間が短縮されることを裏付ける証拠もないから、原告には右疾患によって労働能力が減少したものとは認めることはできない。したがって、被告の主張は採用できない。そうすると、一八年のライプニッツ係数の一一・六八九を乗ずることになる。
そこで、これらにより後遺障害固定時の逸失利益の現価を計算すると、九六四万二〇二二円となる。
四一二万四四〇〇円×〇・二×一一・六八九
三 慰謝料(原告の主張額は入院分八二万〇八二〇円、通院分三七万八四三〇円、後遺障害分四五六万三〇〇〇円)
本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、後遺症の内容、程度、本件訴訟に至る前の当事者間の交渉経緯など諸般の事情を斟酌すると、原告の被った傷害による入・通院の慰謝料は一八〇万円、後遺症に基づく精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は三五〇万円とするのが相当である。
四 損害額合計
前記第二・一6記載の当事者間に争いのない損害額並びに前記に認定したところの休業損害、後遺障害による逸失利益及び慰謝料の合計は、次のとおり、一七八二万六二二九円となる。
1(一) 入院雑費 一〇万〇一〇〇円
(二) 通院交通費 二万八四五〇円
(三) レッカー代 一万円
2 休業損害 二七四万五六五七円
3 後遺障害による逸失利益 九六四万二〇二二円
4 慰謝料
(一) 入・通院の慰謝料 一八〇万円
(二) 後遺症慰謝料 三五〇万円
五 過失相殺(被告の主張する過失割合は、原告二に対し、被告八)
前記当事者間に争いのない事実と証拠(乙三ないし八、原告供述、被告供述)及び弁論の全趣旨によれば、原告及び被告が走行していた本件道路は片側一車線であるが、被告が走行する車線の事故現場の交差点の直前は一時停止の標識が設置されていたこと、事故現場の交差点付近は、農村地帯であり、原告と被告が走行する車線間には相互にその見通しを妨げる障害物はないものの、事故当時は雨が降り、見通しが悪い状態であったこと、被告は、目的地の旭川医大を探すことに意が注がれ、進行方向左側に気をとられたことから、進路前方左右の注視を怠って走行したため、交差点の直前に設置されている一時停止の標識を見落としたこと、被告はこのような状態で走行していたため、被害車両が右側から交差点に向かって直進してくるのに右前方約一五・五メートルの距離において発見して急制動の措置を講じたが間に合わず交差点に進入して加害車両の右前部を被害車両の左前部に衝突させたこと、他方、原告は、シートベルトを装着することなく車両を運転し、交差点を時速三〇キロメートルくらいの速度で直進しようとしたが、原告は、そのような状態で直進を継続したため、衝突場所の七・三メートルまで加害車両に気が付かず、そのまま、被害車両の左前部が加害車両の右前部に衝突したことを認めることができる。
右事実によれば、被告は一時停止標識の設けられた交差点において一時停止を怠った点で重大な過失があることは明らかであるが、原告にも、交差点の状況に応じ左側方向から一時停止を怠って直進する車両に特に注意し、かつ、できる限り安全な方法で進行しなければならない義務(道交法三六条四項)に照し、若干の不注意があったというべきである。そして、双方の過失割合は、原告が二に対し、被告が八と認めるのが相当である。
六 過失相殺後の損害残額
前記の損害の合計額は合計一七八二万六二二九円になるところ、その過失相殺後の残額は一四二六万〇九八三円になる。
七 結論
以上によれば、原告の請求は、主文一項の限度で理由があるが、その余は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 片岡武)